- ショートトラックの公式抗議には100スイスフラン(約2万円)の現金が必要
- 現金供託は「無分別な抗議」を抑制するための国際スケート連盟(ISU)の規定
- 抗議が認められれば返金されるが、棄却されれば没収される仕組み
- 種目により金額や言語規定(フランス語限定など)が異なる
1. ショートトラック混合リレー準決勝で何が起きたか
2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪のショートトラック混合リレー準決勝において、韓国代表チームに激震が走りました。レース中、韓国の主力選手が米国の選手と接触して転倒。韓国側は、この接触が相手側の反則によるものとして、決勝進出に向けた救済措置(アドバンス)を期待しました。
しかし、審判団の判定は「ノーペナルティ」。韓国チームは決勝進出の機会を逃す形となりました。この判定に納得がいかない指導者は、競技終了直後に審判席へと向かいました。その際、手に握られていたのが「自筆の抗議文」と「現金」だったのです。
2. 発生の背景・原因:なぜ抗議に「現金」が必要なのか
五輪競技において、審判の判定に異議を申し立てる(プロテスト)際には、多くの場合で「供託金」の支払いが必要となります。国際スケート連盟(ISU)のルールでは、以下の条件が定められています。
- 支払い:100スイスフラン(または相当する現金)
- 形式:英語による自筆の抗議文を添える
- 期限:競技終了後30分以内
なぜ現金なのかという点については、デジタル決済が普及した現代でも「現場での即時性」と「厳格な手続きの証明」として、物理的な現金が重宝されている側面があります。また、クレジットカード等の電子決済では手数料やエラーのリスクがあるため、確実な徴収が求められる国際連盟の慣習が残っています。
3. 関係者の動向・コメント
韓国代表のコーチは、審判団との対話後、メディアに対し「これ以上できることはない。すでに終了した状況だ」と苦渋の決断を語りました。執拗な抗議はチーム全体への警告や、今後の試合への悪影響を及ぼす可能性があるため、規定に則った手続き以上の追及は断念した形です。
また、解説を務めた元五輪メダリストは、「代表チームは万一に備え、常に現金を用意している。これは抗議の正しいプロトコルだ」と説明。一方で、今回の判定については「転倒した時点で3位だったため、判定そのものは公正だった」との見解を示し、不運な事故であったことを強調しました。
4. 被害状況や金額・人数
今回の事案で直接的に支払われようとした金額は、100スイスフラン(日本円で約1万7,000円〜2万円相当)です。この金額は、抗議が認められた場合には全額返金されますが、認められない(棄却される)場合はそのまま連盟に没収される仕組みになっています。
韓国チームにとっては、金額以上に「メダル候補であった混合リレーでの決勝進出機会を失った」という無形の損失が極めて大きいと言えます。選手1名が転倒したことで、チーム全体の4年間の努力が報われない結果となりました。
5. 行政・警察・企業の対応(ISUの規定)
国際スケート連盟(ISU)をはじめとする各競技団体がこのような制度を設けている最大の理由は、「無分別な抗議の防止」です。もし無料で何度でも抗議ができるようになれば、全ての接触プレーに対して各チームが異議を申し立て、競技進行が大幅に遅延する恐れがあります。
「現金を支払う」という心理的・経済的ハードルを設けることで、各チームに真に正当な理由がある場合のみ提訴させる、一種のフィルタリング機能を果たしているのです。
6. 専門家の見解や分析
スポーツ法学や競技運営の専門家は、この仕組みについて「前時代的ではあるが、競技の現場においては一定の合理性がある」と分析しています。特にショートトラックのような判定が主観に左右されやすく、展開が速い競技では、その場で議論を完結させる必要があります。
しかし、近年ではビデオ判定(VTR)の精度が向上しており、「現金を積んで抗議する」というプロセス自体が、スポーツのクリーンなイメージを損なうのではないかという批判の声も一部で上がっています。
7. SNS・世間の反応
SNS上では、コーチが紙幣を持って走る姿に対し、多くの反響が寄せられています。
- 「五輪で現金払いが必要なんて初めて知った。なんだかシュールな光景」
- 「2万円で判定が覆る可能性があるなら安いものだが、没収されるリスクを考えると慎重になるのもわかる」
- 「英語やフランス語で手書きの書類を作らなきゃいけないなんて、パニック状態の現場では酷すぎる」
特に、デジタル化が進んだ現代において、いまだに「現金と手書き書類」が必須である点に驚く声が目立ちます。
8. 今後の見通し・影響
韓国代表チームは、2022年北京五輪でも同様の失格判定に苦しみ、当時は100ドルを支払って抗議しましたが認められませんでした。今回の件も、現場での抗議が認められなかった以上、結果が覆ることはありません。
今後は、スポーツ仲裁裁判所(CAS)への提訴を行うかどうかが焦点となりますが、過去の事例を見ても判定そのものが覆る可能性は極めて低く、チームは残りの個人種目や男子・女子リレーに気持ちを切り替える必要に迫られています。
FAQ:五輪の抗議ルールに関するよくある質問
Q:なぜカード決済ではなく現金なのですか?
A:国際大会の現場では、異なる国のカードが使えないリスクや通信エラーを避けるため、即時性が最も高い「現金」が規定されています。
Q:種目によって抗議の金額は違うのですか?
A:はい、異なります。ボクシングは500ドル、ボブスレーは200ユーロなど、各国際連盟(IF)が独自に設定しています。
Q:抗議文は日本語でも大丈夫ですか?
A:いいえ、基本は英語です。フェンシングのようにフランス語での作成が義務付けられている種目もあります。
ミラノ五輪ショートトラックで見られた「現金を手にした抗議」は、ISUの規定に基づいた正式な手続きでした。100スイスフランという供託金は、無秩序な提訴を防ぎ、競技の円滑な進行を守るための歴史的なルールです。判定への不満は残るものの、これもまた五輪という巨大な競技運営を支える仕組みの一つと言えるでしょう。
