最高裁の判断は?運賃千円着服で京都市営バス元運転手の代償:横領との違いは?

京都市営バスの元運転手が、わずか千円の運賃を着服したとして懲戒免職と退職手当の全額不支給という極めて重い処分を受け、争いは最高裁まで持ち込まれました。

金額の小ささとは裏腹に、公金を扱う公務員の倫理と信頼性が厳しく問われたこの事件は、社会に大きな波紋を広げています。

なぜわずか千円の着服が、これほどの処分と裁判を招いたのか。この事件の全体像と、横領との違いも最後に解説しています。

目次

事件概要

京都市交通局に長年勤めていた市営バスの男性元運転手が、運賃の一部を着服したことが発覚しました。

事件が起きたのは2022年のこと。ある日、乗客から預かった運賃1,150円のうち、1,000円札を自らのものとして着服。

公務中に起きた不正行為として、同局はこの男性を懲戒免職処分としました。

男性は29年間勤務し、まもなく定年を迎える予定でした。

しかし、処分により退職金およそ1,200万円は一切支給されず、すべてが無となりました。本人は魔が差した」と反省の意を示しながらも「処分が重すぎる」として訴訟を起こしました。

裁判経過

訴訟は一審の京都地裁から始まりました。地裁では、市の対応を「不合理とは言えない」として、男性の主張を退けました。

二審の大阪高裁では一転、市の処分を取り消す判決が出されました。

高裁は「退職手当は給与の後払い的な性格を持ち、生活保障の側面もある」として、全額不支給は「過酷だ」と判断したのです。

しかし、2025年4月17日に最高裁が下した判決はこれらとは異なるものでした。

最高裁判所は「業務中に公金を着服するという重大な非違行為」であると指摘し、「市の処分は裁量権の範囲を逸脱していない」として、高裁判決を破棄。懲戒免職と退職金全額不支給の処分を妥当とする判断を示しました。

この判決は裁判官5人全員の一致した意見によるものであり、男性の敗訴が最終的に確定しました。

弁償しても許されないの?

「たった1,000円を弁償したのにここまでの処分は重すぎるのでは」――一部にはそんな声もあります。

確かに、本人は金額を全額返済し、反省の意も示していました。

しかし、最高裁は弁償済みであることを認めた上で、「それでもなお重大な非違行為」と判断しました。

理由は、金額よりも“行為の性質”にあります。

重い処分?

今回の事件をめぐっては、処分が過剰かどうかに関して世論も分かれています。

「金額が小さいなら口頭注意や停職で済ませるべき」という意見もあれば、「信頼を裏切った以上、処分は当然」という声もあります。

二審では、「退職金には生活保障の意味がある」として、市の判断を「過酷」と評価しました。

退職金は法的には“給与の後払い”という側面を持ち、即座にゼロとするには相応の理由が必要だという立場でした。

しかし最高裁は異なる視点を持ちました。

公金に直接関わる職務に就いていた者がその金に手をつけるという行為は、組織全体の信頼を根本から損なうと位置づけたのです。

金額が小さいかどうか、反省しているかどうか、弁償したかどうかに関わらず、こうした行為に対しては厳正な対応が必要だと判断しました。

市バス職員の信頼とは?

京都市交通局の運転手は、日々の業務を通して市民の命と安全、そして市の財産を預かる立場にあります。

市バスの信頼性は、こうした一人ひとりの行動の積み重ねにより成り立っています。

たとえ小さな金額であっても、乗客からの運賃を不正に着服する行為は、その信頼構造を壊す深刻な裏切りなのです。

信用重視

公務員には民間企業の従業員以上に高い倫理観と責任感が求められます。

職務上知り得た情報を漏らさない、個人の利益を追わない、そして公金を扱う際には厳格な管理を行うことが期待されています。

最高裁が「信頼失墜の深刻さ」を重く見たのは、そうした背景があるからです。

今回の判決により、今後の公務員制度全体に与える影響も少なくありません。

自治体や公共交通機関など、公金を取り扱うあらゆる現場で、類似の事案が起きた際の処分基準が明確になったと言えます。

処分の意義

この事件から見えてくるのは、たった1,000円の不正でも、その重みが「金額以上」であることです。

懲戒免職という厳しい処分が正当とされる背景には、公務の透明性や市民との信頼関係の維持が不可欠だという認識があります。

今回の最高裁判決は、「金額の大小」よりも「職務中に不正をした」という事実の方がはるかに重大であるとする社会的メッセージを伴っています。

この教訓は、公務員に限らず広く社会全体にも共有されるべきものです。

信頼の代償
  • 1,000円着服
  • 退職金ゼロ
  • 懲戒免職確定
  • 最高裁も支持

結びにかえて

退職金およそ1,200万円は一切支給されず・・・

今回の判決は、公務員の信頼性と処分の重さの関係を明確に示したものです。

市民の税金で成り立つ公共サービスに関わる者の不正が、どれほど重く受け止められるかを社会全体に伝える象徴的な出来事となりました。

今後も公務に携わる全ての人々に対して、強い倫理観と自覚が求められていくことでしょう。

「横領」との違い

この事件では「着服」という言葉が報じられていますが、しばしば「横領」と混同されることがあります。

法的な違いを正確に理解することで、事件の性質や処分の妥当性についてより深く捉えることができます。

着服と横領の違い

法律上、「着服」と「横領」は類似して見えても異なる意味を持ちます。

どちらも他人の財物を不正に自分のものとする行為ですが、決定的な違いはその財産の“占有”にあります。

まず「横領罪」は刑法252条に規定され、他人から“委託されて”占有している物を自己のものとする行為が該当します。

たとえば、会社から預かっている経費を私的に使用する場合などがこれに当たります。

一方、「着服」は刑法には明確に規定されておらず、日常用語として使われますが、法的には「窃盗」または「横領」のいずれかに分類されます。

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