2026年10月1日、企業にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を義務づける改正法が施行されました。しかし、義務化から約1カ月が経過しても、企業の現場では対応に迷うケースが少なくないようです。
中小企業福祉事業団が社会保険労務士205人を対象に実施した調査では、76.9%が関与先企業について「判断に迷う/対応困難」とみています。
特に難しいのが、正当な苦情とカスハラの線引きです。企業には何が求められるのか、調査結果や現場の課題、従業員を守るための具体的な対応策を整理します。
- 2026年10月1日から事業主のカスハラ対策が義務化
- 社労士205人への調査で76.9%が企業の判断・対応に難しさがあると回答
- 基本方針や相談窓口の整備は67.9%
- 警告やサービス提供を断る基準の整備は20.5%にとどまる
- 別の調査では60.5%が助けを呼べず1人で対応した経験を持つ
- 従業員を守るには、判断者と対応を打ち切る権限の明確化が重要
カスハラ対策が2026年10月から義務化|何が変わった?
カスタマーハラスメントは、顧客や取引先などからの著しい迷惑行為によって、従業員の就業環境が害される問題です。今回の義務化では、こうした問題への対応を個人任せにしないことが重要になります。
企業に求められるカスハラ対策とは
2026年10月1日に施行された改正法により、事業主にはカスハラを防止するための雇用管理上の措置が義務づけられました。
対策の中心となるのは、企業としての方針を明確にし、従業員が問題を抱え込まないための仕組みを整えることです。
具体的には、相談体制の整備や適切な対応手順の周知などが重要になります。
カスハラへの対応を、接客担当者や電話応対者だけの責任にしないことです。企業として相談・判断・対応の体制を整え、従業員の就業環境を守ることが求められます。
すべてのクレームがカスハラになるわけではない
商品やサービスに問題があった場合、顧客が説明や改善を求めること自体は正当な行為です。
一方で、要求内容に問題があったり、要求を実現するための手段や態様が社会通念上相当な範囲を超えたりする場合には、カスハラに該当する可能性があります。
そのため、単に顧客が怒っているという理由だけで、カスハラと決めつけることは適切ではありません。
社労士の76.9%が「判断に迷う」|調査で分かった課題
制度が始まっても、現場で適切に運用できるとは限りません。中小企業福祉事業団が社会保険労務士205人を対象に実施した調査では、対策の整備状況と実際の対応力に差があることが示されています。
約8割が判断や対応の難しさを指摘
調査では、社労士の76.9%が、関与先企業についてカスハラの判断に迷ったり、対応が難しかったりするとみています。
特に問題となるのが、正当な苦情と不当な要求の境界です。
顧客の主張に一定の正当性があっても、その伝え方や要求の程度によっては、従業員の負担が大きくなる場合があります。
なお、この76.9%は社労士による関与先企業の状況に関する回答であり、全国の企業の76.9%が直接回答したという意味ではありません。
方針はあっても対応を止める基準がない
同調査では、基本方針の策定と相談窓口の設置について、いずれも67.9%という整備状況が示されました。
しかし、警告やサービス提供を断る基準の整備は20.5%にとどまっています。
| 対策項目 | 割合 |
|---|---|
| 基本方針の策定 | 67.9% |
| 相談窓口の設置 | 67.9% |
| 警告・サービス提供拒否の基準 | 20.5% |
基本方針や相談窓口があっても、どの段階で警告し、誰が対応を終了させるのかが決まっていなければ、現場の判断は難しくなります。
今回の調査は、対策を設けることと、実際に従業員を守れる仕組みを作ることの違いを浮き彫りにしています。
従業員の60.5%が1人で対応|上司に守られない現実も
企業側の判断基準が曖昧なことは、実際に顧客対応をする従業員の負担にもつながります。別の調査からは、周囲に助けを求められない状況が見えてきます。
助けを呼べず対応した経験が60.5%
RevCommの調査では、60.5%が助けを呼べず、1人で対応した経験があるとされています。
さらに48.3%は、上司や会社が守ってくれず、対応を丸投げされたと感じる状況を経験しています。
これらの数字は、カスハラ対策を進めるうえで、相談窓口を設置するだけでは十分ではないことを示唆しています。
従業員が「自分で解決しなければならない」と感じる環境では、過度な要求への対応が長引くおそれがあります。上司や責任者が介入する仕組みを整えることが重要です。
なぜ現場任せになってしまうのか
考えられる要因の一つは、対応を引き継ぐタイミングが決まっていないことです。
また、責任者に報告しても対応方針が示されなければ、結果的に担当者が顧客対応を続けることになります。
こうした状況を防ぐには、従業員が相談できるだけでなく、責任者が判断して対応を引き取る体制が必要です。
正当なクレームとカスハラの違いは?判断のポイント
カスハラ対策で難しいのは、顧客からの苦情を適切に受け止めながら、従業員への不当な行為を防ぐことです。判断に当たっては、要求の内容と伝え方を分けて考える必要があります。
要求内容と手段の両方を確認する
例えば、購入した商品に不具合があり、交換や説明を求めることは通常、正当な苦情に当たります。
しかし、説明を受けた後も長時間にわたり従業員を拘束したり、人格を否定する暴言を繰り返したりする場合には、カスハラに該当する可能性があります。
| 場面 | 具体例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 商品の不具合 | 交換や返金を求める | 正当な苦情になり得る |
| 接客への不満 | 改善や説明を求める | 内容や伝え方による |
| 暴言・威圧 | 人格否定や脅迫を繰り返す | カスハラに該当する可能性 |
| 長時間の拘束 | 説明後も執拗に対応を要求 | 態様や状況によって判断 |
※一般的な判断の考え方を示した例です。個別の行為がカスハラに当たるかは、具体的な状況に応じて判断する必要があります。
苦情を一律に拒否することも問題
カスハラ対策は、顧客からの苦情を受け付けなくする制度ではありません。
企業側に不備があった場合には、適切な説明や対応が必要です。
重要なのは、正当な要求には誠実に対応しつつ、不当な要求や著しい迷惑行為に対しては従業員を守る仕組みを設けることです。
企業が今すぐ取り組めるカスハラ対策とは
横山信弘氏は、現場を守るためにはマニュアルの整備だけでなく、判断や対応の権限を明確にすることが必要だと指摘しています。具体的にどのような運用が考えられるのでしょうか。
判断者・対応者・記録担当者を決める
現場の従業員がすべてを判断するのではなく、役割を分担することが重要です。
- 一次対応者:顧客の話を聞き、事実関係を確認する
- 責任者:対応の継続や警告の必要性を判断する
- 対応終了の権限者:必要に応じて対応を打ち切る
- 記録担当者:発言内容や対応経緯を記録する
- 代行者:責任者が不在の場合に判断を引き継ぐ
担当者が明確になっていれば、現場の従業員が判断を抱え込むリスクを減らせると考えられます。
「10分を超えたら店長へ」などの基準を設ける
横山氏は、対応時間が10分を超えた場合に店長へ引き継ぐといった、具体的なルールの例を挙げています。
ただし、10分という時間は法令で一律に定められた基準ではありません。企業が実情に応じて設定する運用例です。
- 担当者が顧客の要求内容を確認する
- 一定時間を超えた場合や暴言などがあった場合、責任者へ引き継ぐ
- 責任者が要求内容と対応状況を確認する
- 必要に応じて警告や対応終了を判断する
- 対応経緯を記録し、社内で共有する
危険が差し迫っている場合には、時間基準を待たずに安全確保を優先する必要があります。
中小企業への影響と今後の課題
カスハラ対策は、大企業だけの問題ではありません。少人数で店舗や事業所を運営する中小企業にとっても、従業員を守る体制づくりが課題となります。
少人数の職場では責任者不在時の対応が課題
中小企業では、経営者や管理職が常に現場にいるとは限りません。
そのため、責任者が不在の時間帯でも、従業員が相談し、必要な判断を受けられる仕組みが求められます。
電話での相談や代行者の指定など、企業規模に応じた体制を整えることが現実的な対策となるでしょう。
今後は制度の運用状況が焦点に
義務化によって企業の基本方針や相談窓口の整備が進んでも、実際の問題発生時に機能するかどうかは別の課題です。
今後は、対応基準の整備、責任者への引き継ぎ、従業員への教育などがどこまで進むかが重要になります。
また、正当な苦情を不当に排除しないよう、顧客対応の品質とのバランスも求められます。
よくある質問(FAQ)
2026年10月からのカスハラ対策義務化について、企業の担当者や従業員が気になる疑問を整理しました。
まとめ|カスハラ対策は「誰が従業員を守るか」が重要
2026年10月からカスハラ対策が義務化されましたが、社労士205人への調査では76.9%が関与先企業の判断や対応に難しさがあるとみています。
基本方針や相談窓口の整備は進む一方、警告やサービス提供を断る基準の整備は20.5%にとどまっています。
今後は、現場の従業員が1人で抱え込まないよう、判断者や対応を引き継ぐ責任者を明確にし、実際に機能する仕組みを整えることが重要です。
顧客からの苦情に誠実に向き合うことと、従業員を守ることは、本来対立するものではありません。
しかし、対応を個人任せにすれば、正当な苦情への対応も、従業員の安全確保も難しくなる可能性があります。
企業に必要なのは、方針を掲げるだけでなく、問題が起きたときに誰が判断し、誰が対応を引き受けるのかを明確にすることです。
カスハラ対策の義務化を実効性のあるものにするためには、現場で働く人が安心して助けを求められる職場づくりが欠かせません。
横山信弘氏「カスハラ対策義務化から1カ月 社労士の8割『現場は線引きに迷う』、守るのは誰の役目か」(Yahoo!ニュース エキスパート、2026年11月4日)
関連調査:中小企業福祉事業団による社会保険労務士205人への調査、RevCommによる調査(元記事で紹介された数値を使用)
※本記事は提供された報道内容をもとに構成しています。具体的な対応例は一般的な提案であり、すべての事案に一律に適用できる法的基準ではありません。


