「体調がつらい。でも“生理休暇”とは言いにくい。」
多くの職場で長年漂ってきた、この言い出しにくさが変わり始めています。名称を見直し、性別を問わず使える仕組みに広げる企業や自治体が増え、取得のハードルが目に見えて下がってきました。
建設現場を抱える企業が“生理”の直言を避けた「M休暇」に改称し、周知と運用を徹底した結果、取得件数は二桁から三桁へ。現場の空気が緩み、当事者も周囲も配慮の言葉を交わせるようになったと言います。
この記事では、名称変更や対象拡大の最新動向、取得率が低迷した歴史的背景、経済損失の規模、制度設計の要点、導入手順と社内浸透の実務までを体系的に整理。読み終える頃には、あなたの職場で“今日からできる”アクションが明確になります。
- 名称の中立化(例:M休暇F休暇マイケア休暇)で申請心理的障壁を低減
- PMS・更年期・不妊治療・性別適合医療などへ対象を拡大し包摂性を強化
- 取得率は法制定以降低下し2020年度は0.9%、制度はあれど使われない構造
- 月経随伴症による経済損失は年約5,700億円、女性特有課題全体で約3.4兆円
- 制度は「名称」×「運用設計」×「周知教育」の三位一体で機能する
「言いやすい」名称が職場を変える――現場から始まった制度刷新
建設業大手グループの一社は、女性技術者の提案を契機に生理休暇を「M休暇」に改称。PMSも対象化し、時間単位運用・申請フローの簡素化・社内報での周知を重ねました。結果、取得は年間十数回から延べ数百回規模へ急増。用語のニュートラル化が、実効性を押し上げた典型例です。
警察組織でも動きが進み、ある県警は「生理休暇」を「F休暇」に変更。現場職員の時間単位取得が広がり、前年の取得時間を大きく上回る成果が出ています。
金融・製造でも包摂が進み、証券会社は「マイケア休暇」として更年期・不妊治療を含め性別不問に。製薬企業は「セルフケア休暇」を新設し、性別を問わず更年期や性別適合医療にも活用可能としました。衣料大手は20年の段階で家族通院の付き添いまで対象にする「パーソナル休暇」を導入し、運用ノウハウを蓄積しています。
なぜ“制度があるのに使われない”のか――歴史的停滞の正体
日本では1947年の労基法で生理休暇が明文化されましたが、取得率は長期低下。1997年度3.3%→2020年度0.9%へ。背景には「言い出しにくさ」「無給運用の多さ」「前例の少なさ」が複合し、申請の社会的コストが高止まりした現実があります。
数字が示す生産性インパクト――経営課題としての“健康”
指標 | 最新値・概要 | 示唆 |
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生理休暇の請求率 | 2020年度 0.9% | 制度利用が極端に低い。名称変更・運用改善が鍵。 |
月経随伴症の経済損失 | 約5,700億円/年(欠勤1,200億+プレゼンティーイズム4,500億) | 放置すれば収益性・人材定着に直撃。 |
女性特有課題の損失合計 | 約3.4兆円/年(更年期・不妊治療等含む) | 健康投資は経営レバレッジが高いテーマ。 |
「個人の我慢」か「組織の設計」か――対立軸を解く
長らく“自己管理”へ押し込められてきた体調の問題は、実は組織設計の課題です。名称の中立化(申請の心理的コストを下げる)×対象の包摂(PMS・更年期・不妊治療等)×周知と教育(上長研修・同僚向けガイド)を束ねて初めて、休める現実が生まれます。
「生理は“隠すもの”という文化や教育の遅れが議論を妨げてきた。見直しは、性別を問わず“健康に働く権利”の再設計でもある。」
デジタルが加速する透明性――“見える化”とスティグマ対策
勤怠・申請はデジタル化が前提に。申請理由は選択式・任意記述なし、承認ルートは最短、勤怠上は医療系特別休暇として他休暇と並列表示――といった“見える化のさせ方”がスティグマ対策になります。社内SNS・ナレッジで「使い方の具体例」を共有し、相談窓口の連絡先を常時掲示しましょう。
政府・企業はどう動くべきか――実務導入の設計図
設計フェーズ | 実務ポイント | チェック項目 |
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ポリシー策定 | 名称中立化(例:M/F/マイケア/セルフケア)/対象の明記(PMS・更年期・不妊・性別適合等) | 就業規則改定/労使協議/勤怠コード追加 |
運用デザイン | 時間単位取得/申請理由の詳細提出不要/診断書原則不要/賃金扱いの方針化 | 評価・賞与への不利益取扱い禁止を明文化 |
周知・教育 | 上長向け面談スクリプト/同僚向けFAQ/社内報・eラーニング | 年次で取得率と満足度を公開し改善 |
ヘルスサポート | 産業医・外部相談/医療情報のガイド提供/物品(カイロ等)配置 | 個人情報の厳格管理・アクセス権限定 |
①「本休暇は性別を問わず、月経随伴症、更年期症状、不妊治療、性別適合医療等による就業困難時に取得できる」
②「申請は時間・半日・1日単位。申請理由の詳細提出・診断書を原則不要とする」
③「本休暇の取得を人事評価・処遇において不利益に取り扱わない」
まとめ――“名称×運用×教育”で働きやすさは変えられる
制度は「あるかないか」ではなく「使えるかどうか」。名称を変え、対象を広げ、周知と教育を続けることで、今日から現場は変えられます。健康に働ける人が増えれば、欠勤は減り、生産性は戻り、離職も防げる。人材難の時代にこそ、最も費用対効果の高い投資です。