フジテレビ系列の「NST新潟総合テレビ」(新潟市中央区)が、関東信越国税局から2024年3月期までの6年間で計約11億円という巨額の所得隠しを指摘される前代未聞の事件が発覚し、放送業界に衝撃を与えている。
民放テレビ局がCM制作を巡って国税当局から不正を指摘されるのは極めて異例で、架空のCM制作費計上による「裏金」を広告会社への接待費に充てていたという組織的な不正の実態が明らかになった。
✅ 事案の基本情報チェックリスト
- 事案: NST新潟総合テレビによる11億円規模の所得隠し
- 発生場所: 新潟市中央区(NST本社)
- 発覚日時: 2024年6月3日報道発表
- 調査期間: 2024年3月期までの6年間
- 概要: CM架空発注による約11億円の所得隠し、重加算税含む4億円追徴課税
- 注目理由: 民放局での前例のない大規模不正、業界の構造的問題を露呈
🌐 事案の詳細解説 – 架空発注から裏金工作まで注目の手口
CM制作を委託
関東信越国税局
架空・水増しの外注費等の不正経理による悪質な所得隠蔽
⇒ NSTに約12億円の申告漏れを指摘
申告漏れ:約12億円
▶ いつ・どこで起きた不正なのか?
NST新潟総合テレビは1968年3月に設立され、同年12月から放送を開始した老舗ローカル局である。
フジ・メディア・ホールディングスが筆頭株主として3分の1超の株式を保有し、2024年3月期の売上高は67億4930万円を記録していた。
関東信越国税局の調査により、同社は実際にはCMを制作していないにもかかわらず、複数の制作会社に対してCM制作費として架空の外注費を支払い、経費計上していたことが判明した。
さらに、実際に制作したCMについても外注費を水増しし、その差額を「裏金」として捻出していた実態が明らかになった。
▶ なぜ注目されたのか?
この事件が特に注目を集める理由は複数ある。第一に、民放テレビ局がCM制作を巡って国税当局から不正を指摘されるのは極めて異例であること。
第二に、11億円という巨額の所得隠しは地方局としては前代未聞の規模であること。
第三に、公共性の高いメディア企業による組織的な不正経理が、業界全体の信頼失墜につながる可能性があることである。
🌐 背景要因の話題解説 – 地方テレビ局を取り巻く厳しい経営環境

▶ テレビ業界の構造的危機と注目すべき変化
近年の民放テレビ業界は、インターネットの台頭によって深刻な経営危機に直面している。
総務省によると、全年代の平日1日当たりのテレビ視聴平均時間は2023年には135分となり、10年間で2割も減少した。
これに伴い、広告費においてもインターネットがテレビを上回るようになり、その差は年々拡大している。
特にローカル局は、キー局と比較して不動産やイベント事業などの「放送外収入」が少ないため、CM収入への依存度が極めて高い。
このため、広告会社との関係維持が死活問題となり、時として行き過ぎた営業活動につながるリスクを抱えている構造的な問題がある。
比較項目 | キー局 | ローカル局 |
---|---|---|
収入構造 | 放送外収入多様化 | CM収入依存度高 |
広告会社との関係 | 選択肢豊富 | 限定的・依存的 |
経営余力 | 相対的に安定 | 厳しい状況 |
リスク対応 | 多角化可能 | 選択肢限定 |
🌐 現場詳細の解説 – 不正工作の具体的手口に注目

▶ 架空発注はなぜ裏金工作に?
NST新潟総合テレビの不正工作は巧妙かつ組織的であった。同社は自局で放送するCMを制作するとして、取引のある複数の制作会社に外注費(制作委託料)を支払い、正当な経費として計上していた。
しかし実際には、スポンサーが存在せず放送予定もないCMの制作費を装ったり、実在するCMでも外注費を水増しするなどの手法を用いていた。
制作会社からは架空・水増し分がバックされ、それが広告会社への接待費などの「裏金」として使用されていた。
テレビ局にとって広告会社はスポンサー獲得に欠かせない存在であり、営業活動の一環として接待を重ねることで、確実にCM収入を得る目的があったとみられる。
▶ 国税局の対応は?
関東信越国税局は、こうした架空や水増しの外注費計上により所得を圧縮していた行為について、仮装・隠蔽を伴う悪質な所得隠しと判断した。
その結果、重加算税を含めて法人税計約4億円を追徴課税したとみられる。
- 国税局による税務調査開始
- 架空・水増し外注費の発覚
- 裏金工作の実態解明
- 悪質な所得隠しと認定
- 重加算税を含む4億円追徴課税
- NST側が修正申告・納税完了
🌐 よくある質問への解説 – 事件の話題ポイントを注目

Q1: なぜこのような不正が長期間続いたのか?
A1: 地方局の厳しい経営環境と、広告会社との関係維持への強い危機感が背景にあり、組織的な隠蔽が行われていたため。
Q2: フジテレビ本体への影響は?
A2: フジ・メディア・ホールディングスは筆頭株主だが、NST独自の経営判断による不正であり、直接的な責任は限定的とみられる。
Q3: 他のローカル局でも同様の問題は起きているのか?
A3: 今回が初の発覚事例だが、業界の構造的問題を考えると、他局でも潜在的リスクは存在する可能性がある。
Q4: 視聴者への影響は?
A4: 放送サービス自体に直接的な影響はないが、メディアとしての信頼性に大きな打撃を与えた。
Q5: 再発防止策はどのようなものか?
A5: 弁護士・社会保険労務士を交えた社内調査を実施し、コンプライアンス体制の抜本的見直しを進めている。
🌐 まとめと今後の課題 – 注目すべき改善策の話題解説
▶ 責任の所在と今後の課題
NST新潟総合テレビは「税務調査を受け、一部見解の相違もあったが、税務当局の修正申告の指導に従い、納税を済ませた」と回答している。
経営責任として常勤役員の報酬減額を実施したものの、不正がなぜ始まったのか、上層部の関与の有無など、報道機関としての説明責任は十分に果たされていない。
業界全体としては、地方局の経営環境改善と継続的ななビジネスモデルの構築が急務である。
単純な経営合理化だけでなく、デジタル化への対応、新たな収益源の開拓、そして何より公共的使命を果たすための倫理的経営の確立が求められている。
🖋 静かな警鐘として
夕暮れの新潟の街に響く電波に乗せて、長年にわたり地域の人々に情報を届けてきたNST新潟総合テレビ。その信頼の礎が、見えないところで着実に蝕まれていたという現実は、あまりにも重い。
メディアとは、社会の公器として真実を伝える使命を負う存在である。経営の厳しさが不正を正当化することは決してない。
この事件は、地方メディアが直面する構造的課題を浮き彫りにすると同時に、私たち一人ひとりに問いかけている。真の情報の価値とは何か、そして信頼とは一度失えばどれほど取り戻すことが困難なものなのかを。
静寂の中で響く電波のように、この教訓が業界全体に深く刻まれ、再び同じ過ちが繰り返されることのないよう、私たちは見守り続けなければならない。


