中古車業界に激震を与えたビッグモーターの不正問題。その渦中から誕生したのが、新たな経営体制のもとで信頼回復に挑む「WECARS」です。
かつての企業体質を完全に刷新し、再建を進めるWECARSの改革は、伊藤忠商事と企業再生ファンドによる買収から始まりました。
本記事では、企業分割の背景や新経営陣による方針転換、メディア報道による社会的な視点まで、再建プロセスの全容を丁寧に解説します。
WECARS誕生の経緯と企業分割の背景

不正発覚と社会的信用の喪失
ビッグモーターは、長年にわたり中古車販売業界のトップ企業として知られていました。
しかし、板金部門における保険金不正請求問題や、顧客に対する不適切な営業手法などが次々と報じられ、企業としての信頼は地に落ちました。
このような状況の中、社会的責任を果たすべく、企業再建が急務となりました。
伊藤忠グループとJWPによる買収劇
2024年5月、ビッグモーターは「WECARS」と「BALM」の2社に分割されました。
WECARSは事業継承会社として全国約250店舗、130整備工場、約4200人の従業員を引き継ぎ、新会社として再出発。
一方、旧法人格は「BALM」として存続し、巨額の負債処理に取り組んでいます。
この分割は、伊藤忠商事グループと企業再生ファンドのジャパン・ワークアウト・パートナーズによる買収により実現しました。
両社は合計400億円を出資し、WECARSの株式を取得。創業家は経営から完全に排除され、全株式を無償譲渡しました。
さらに創業家は被害者補償のため、100億円をBALMに拠出しています。
経営改革の核心は「企業風土の刷新」

旧経営陣の排除と新社長の登用
新たに就任した社長は、伊藤忠商事出身の田中慎二郎氏です。田中氏は、かつてのパワハラ体質や極端な成果主義を廃し、健全な職場環境の構築に乗り出しました。
これにより、現場で働く従業員の士気は徐々に回復しつつあります。
不正の温床となった制度を解体
特に問題視されていたのが、板金部門における厳しい営業ノルマです。
この制度が保険金不正の温床となっていたことから、新経営陣は即座にこのノルマを撤廃。不正行為の再発防止と法令遵守体制の強化が進められました。
従業員教育と価値観の再構築
WECARSでは、法令順守・顧客第一主義・従業員の人権尊重を軸とした企業文化への転換を図っています。
全社員を対象とした研修プログラムが導入され、店舗ごとに「信頼回復宣言」が掲示されるなど、意識改革が進行中です。
財務面の再建と連携戦略

BALMの再生手続きと補償問題
旧法人BALMは、約800億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請しています。
これに対し、資産は約300億円とされており、債権者との調整が続いています。
補償金の支払いが進まないことに対しては、社会から厳しい目が向けられており、信頼回復のためにも誠実な対応が求められています。
WECARSの業績回復と新たな挑戦
2025年3月時点で、都市部を中心に来店客数の回復傾向が確認されており、営業成績にも改善の兆しが見られています。
伊藤忠グループでは、傘下のヤナセや伊藤忠エネクスと連携し、整備ネットワークの再構築や中古車販売の付加価値向上を狙っています。
ブランド戦略としてのWECARS再始動
旧来のビッグモーターの看板はすべて撤去され、WECARSブランドとして新たなスタートを切りました。
消費者に向けては「信頼第一」「顧客満足度重視」を前面に打ち出し、積極的にイメージ回復を図っています。
社会の目とメディア報道が果たす役

ドキュメンタリー番組が映した現場
2025年4月、テレビ東京が放送したドキュメンタリー番組では、WECARSの現場で起きているリアルな変化が報じられました。
番組では、店長や整備士が過去のやり方に疑問を持ちつつ、顧客との信頼関係を築こうと奮闘する姿が映し出されました。
報道による透明性と社会的監視の強化
報道は企業にとってリスクでもありますが、同時に透明性を高める武器にもなります。
WECARSにとって、メディアの視線は「誠実さの証明」として受け止めるべきものであり、それをどう活用するかが今後の成否を分けるポイントとなります。
今後の見通しと再建に必要な視点

信頼回復には「長期的視点」が不可欠
企業の信頼を取り戻すには、短期間での成果を追い求めるのではなく、地道な努力の積み重ねが求められます。
WECARSでは、顧客満足度調査の定期実施や、従業員からの内部通報制度強化など、継続的な改善体制の整備が進められています。
自動車業界における競争力の確保
今後は、単に不正をなくすだけでなく、差別化されたサービスやデジタル技術の導入によって新たな価値を提供できるかが問われます。
例えば、車両状態の透明化やオンライン見積もりの自動化など、利便性の高い仕組みを導入する企業が支持される時代です。
まとめ
- WECARSはビッグモーターからの完全独立を果たしました。
- 伊藤忠とJWPによる資本支援で再出発しました。
- 旧体質を廃し、健全な企業文化を再構築中です。
- 板金ノルマ撤廃など、不正防止策を徹底しています。
- 顧客信頼を軸にブランド再構築が進められています。
- 今後は業績と社会的信用の両立が求められます。